有限会社エリナ
酵素ってそもそもな〜に?
生物の細胞の中で作られ、体の中で特別な働きをするタンパク質を酵素といいます。
酵素の話 タンパク質というと、普通はすぐに筋肉や内臓や皮フ、血液などを連想しますが、酵素は一定の形を作るのではなく、生物に必要な無数の化学作用をコントロールする働きをします。
 生物の化学作用で一番身近なのは食物の消化・吸収でしょう。食物が身体に吸収されるためにはさまざまな酵素が必要です。
 消化酵素は生物の種によって大きく違い、「例えばヒトと同じほ乳類でも牛・馬などはセルロース(食物繊維)を分解する酵素を作れますから、人間が食べられない固い木や草を食べてエネルギー源(糖)に変えられます。

 食物を消化する他に生物は呼吸し、全身に酸素と栄養を届け、老廃物を分解・排泄し、情報を脳に送り、記憶し、判断し、動き回る…これらの活動は全て化学反応として行われています。
 細胞がたった一個の微生物も、数十兆個からなるヒトも全く同じです。
 つまり生き物の体の中では何千にも及ぶ異なる化学反応が常に進行していて、その一つ一つの化学反応にはそれぞれ専門の酵素が働いて行われます。ですから細胞はいつでも千をはるかに超える種類の酵素を作り出しています。
 酵素は化学反応が素早く確実に行われるのを助けるもの、「触媒」として働きます。
酵素は天使?それとも悪魔?
酵素は天使?それとも悪魔? お話=その1
 明るいスポーツマンのA男くんと、美人で優しいB子さんはお隣同士です。お互いに強く意識しているのですが日頃は全く交流がありません。それもそのはず、A男くんはA語、B子さんはB語しか話せないからです。
 ところがある日、二人のお向かいにC夫人が引越してきました。C夫人はA語もB語もペラペラです。
 C夫人宅のパーティーに招かれたA男くんとB子さんは、C夫人の通訳のお陰であっという間に激しい恋に落ち、幸せな家庭をつくりましたとさ。めでたし、めでたし。
お話=その2
 A介くんとB江さんは一流商社に同期入社3年目で、将来を誓いあったラブラブカップルです。二人の仲は社内公認でしたが、一人これを快く思わない人物がいました。C子です。
 C子はなかなかの美人なのですが性格が悪く、たまたまA介と同じ課に異動になった機会に彼に接近を開始しました。一方B江に対してはA介との交際について有ること無いことを吹き込んだので、A介とB江の仲はたちまち冷え込み、あれほど固く結ばれていた二人でしたがとうとうけんか別れしてしまいました。
 B江は親の勧める相手と結婚して退社し、傷心のA介は一人寂しく田舎の支店に転勤していきましたとさ。C子はといえば、次の獲物を狙って社内を物色中とか…。やれやれ。
さて、このお話に出てきたC婦人とC子の働きが酵素の役目です。C婦人は合成反応、C子は分解反応に無くてはならない触媒というわけです。
酵素は驚異の魔法の力!
酵素は驚異の魔法の力! 酵素は、自身は全く変化せずに合成・分解・変換など、生体内のあらゆる化学反応の速度を早めます。
 どのくらい早めるかは酵素の種類によってさまざまですが、最低でも通常の数千万倍、時には数千京!倍(1億倍のさらに数千億倍)ともいわれます。
 これは通常なら何ヵ月、何年もかかるような反応を1秒で行う、あるいは酵素なしでは何百億年経っても絶対に起こらない反応を瞬時に行ってしまう、ということです。
 
 また、一つの酵素は決まった相手だけに働き、決まった反応だけを進める、という重要な性質があります。ですから酵素の働きは超精密なカギとカギ穴に例えられます。そのカギがなければ開閉に何年もかかるような扉(とびら)、あるいは絶対に開閉できない錠(じょう)を想像してみてください。
  しかも酵素は、もともと生物の体内という穏やかな環境の中で、数千にも及ぶ別々の反応を、必要な時と所を間違えず、迅速確実に進行させます。  
  酵素の働きは劇的で、まさに魔法の力としか言いようがありません。
酵素に欠陥があると大変!
酵素に欠陥があると大変! 同じ生物種、例えばヒトの間でも遺伝子のちょっとした違いで酵素の働きに差があることがあります。
 アルコール(正確にはアセトアルデヒド)を分解する酵素の強い人、弱い人がいるのは良く知られていますし、乳糖を分解する酵素のない人が牛乳を飲むと下痢をします。
 これらは命に別状ありませんが、酵素に欠陥があると大抵は胎児としても成長できません。また時には成長につれて異常が現れてくる事もあります。例えばある種の酵素に欠陥があり、本来はすぐに無毒化されるはずの体内にできる有害物が分解されず次第に蓄積され、一定量を越えると影響が出てくる、というようなケースです。
サリンの猛毒の秘密とは…?
サリンの猛毒の秘密? 有名な毒ガス・サリンは、体内に吸収されると、ある一種類の酵素の働きをストップさせ、そのため生物はたちまち死んでしまいます。たった一つの酵素が働かなくなっただけで、なぜそんな重大な結果になるのでしょうか?

 神経細胞が情報を伝達するにはAch(アセチルコリン)という興奮物質を作り、隣の神経細胞を刺激します。これを受けた隣の細胞も同じAchを作ってさらに隣に伝えます。
 一方Achが作られるとすぐにこれを分解する酵素=AchE(アセチルコリンエステラーゼ)が作られてAchを分解し、神経細胞は次の興奮に備えます。つまり神経はこの興奮の点滅で情報を伝えるのですが、サリンはこのAchEの働きをしゃ断してしまいます。
 そうなると神経回路はいわば興奮したまま働かなくなり、心拍も呼吸も停まってしまうのです。
豚は卑(いや)しい動物ですか?答えはNO!
豚は卑(いや)しい動物ですか?答えはNO! ブタは人間の排泄物を喜んで食べるという事です。ブタ小屋の上に人間のトイレを作るという例は昔から世界各地にありました。「キャー、ブタに生まれないでよかった」などという声が聞こえてきそうですが、実は我々人間も他の生物の排泄物を喜んで食べています。
 えっ、そんな覚えはない?、いえいえ、例えば各種のお酒。糖に酵母という微生物を加えると発酵してアルコールと炭酸ガス=CO2が発生します。酵母が作る酵素の働きによるのですが、簡単にいえば糖を食べて酵母が繁殖し、アルコールとC02を排泄したわけです。
 酵母菌の中でアルコールをたくさん"排泄"する種類はお酒造りに使いますし、C02の方をたくさん"排泄"する菌はパン作りに欠かせません。パン生地の中に"排泄''されたガス=つまり酵母のおなら!?が無数の気泡になり、パンをふっくら柔らかくしてくれるからです。
 さあ、それでもあなたはブタをわらえますか?。
日本酒造りは二段構え
日本酒造りは二段構え ワインはブドウの中の糖(ブドウ糖)を発酵させて作りますが、日本酒の原料はお米です。お米は糖でなくデンプンですから、このままでは酵母が食べてくれません。実はデンプンはブドウ糖の分子がたくさんつながってできたものです。

 ですからデンプンの分子をばらばらにすればブドウ糖になり、お酒にすることができます。デンプンを分解するのはアミラーゼという酵素です。
 ご飯を噛んでいるとロの中で少し甘くなりますね。これは睡液に含まれる弱いアミラーゼによってデンプンの一部がブドウ糖に分解されたからです。
 お酒を造ることを<醸(かも)す>といいますが、これは<噛む>から来た言葉だといわれています。
 もちろん噛んでお酒を造るのは大変ですから、昔の人は強いアミラーゼを大量に作りだすある種のカビ=コウジカビを見つけ、これでデンプンを糖に変え、さらに酵母の酵素を利用して日本酒を造るようになりました。
酵素の恵みは無限∞大
酵素の恵みは無限∞大 各種のお酒の他に、チーズ・紅茶・漬物・納豆・味噌・しょう油など、伝統食品には酵素の働きがなければできない物がたくさんあります。

 これらは全て私たちの祖先が経験から得た知識を積み重ね、微生物やカビを繁殖させたり、あるいは麦芽や動物の内臓を使うなど、酵素をそれとは知らずに利用して作られてきました。
酵素はどうやって作るの?
酵素はどうやって作るの? 酵素が科学的に解明されたのは20世紀も半ば近くになってからです。
 でも酵素の本態が判明しても、それは生物の生きた細胞の中で作られるものですから、これを人工的に合成するのは非常に困難です。
 そこで人間はたくさんの微生物やカビなどの中から、必要な性質の酵素を作るものを選びだし、これを繁殖させて利用するようになりました。
 その後遺伝子が解明され、現在ではある生物が作る特定の酵素の遺伝子が読み取れるようになったので、この遺伝子を酵母菌や大腸菌などの遺伝子に組み込み、本来ならその菌が作れないはずの酵素を大量に作らせることができるようになりました。

 また、酵素を純粋な結晶にして安定保存する技術も進み、酵素の利用範囲は飛躍的にふえました。
 食品・医薬品・洗剤・化粧品・繊維製品・皮革その他の分野で酵素のスーパーパワーが十二分に発揮されています。
酵素の働きはノーベル賞級!?
酵素の働きはノーベル賞級!? 21世紀最初のノーベル化学賞は日本の野依(のより)良治博士(以下3人)に与えられました。野依博士の業績は、酵素と同じような力をもつ触媒(しょくばい)を人工的に作りだしたことにあります。
 化合物の中には分子式が同じでもその構造がちょうど鏡に写した像のように全く逆になる物を作ることがあります。右手と左手の関係に例えて対掌体(たいしょうたい)といい、DLの記号で区別します。
 D、Lは化学的な性質がほとんど同じため、二つを識別したり、片方だけを合成することができませんでした。

 そのため世界に大きな悲劇を引き起こしたのが有名な睡眠薬=サリドマイド剤です。これは1950年代にドイツで作られたのですが、対掌体を持つ薬だったため、Lに睡眠効果がありましたがDが胎児の手足の発育を阻害してしまいました。
 野依博士はこのD、Lを別々に合成する触媒を開発したことが評価されたのです。でも実は酵素にとってはこんなことは朝メシ前です。
 D、Lはサリドマイドのように正反対の作用をすることがありますから、体内では厳密に区別して作られます。例えばタンパク質を作るアミノ酸分子は20種の内19種までが対掌体を持っています。
 しかし生物のタンパク質は全てL体で作られ、Dが使われることは全くありません。酵素が厳格にこれを識別しているのです。

 これも酵素の不思議な能力の一つ。ノーベル賞を何度ももらえるほどの実力ではありませんか。